自閉スペクトラム症は様々な特徴をもっています。そしてその特徴の原因についても、脳の問題とする説や精神的問題とする説など、様々な説があります。
これらの説は大変重要な意味をもっていて、今後の研究に期待したいところですが、むしろ医学や障害学の領域に近く、今の研究段階では脳や精神の問題を原因と位置づけても、結局のところ教育方法には結びつきにくいように思われます。したがって教育としては別のポイントを原因として定めることで、私たちが取り組まなければならない教育方法が見えてくるのではないかと考えています。
当塾では、自閉スペクトラム症はコミュニケーション力が低いために様々な問題を抱えていると考えて指導していきます。
自閉症には「自閉」という言葉が使われていますが、自分を閉ざしているとは思えません。むしろ健常者のコミュニケーションが複雑すぎて分かりにくいので、対応できなかったり避けていたりするだけではないかと思えます。
保護者の方なら特によくご理解いただけると思いますが、毎日一緒に過ごしている自分の子なので、行動は特徴があっても考えはある程度理解し合えます。しかし外に出て他人の中に入ると、周りとの接触が難しく孤立してしまいます。自分の子なのによく分からないと感じる時の多くは、学校のようなマイノリティが不利を感じる場所に置かれた時です。そこで他の子と同じように行動してくれないので、なぜだろうと不思議になるのです。社会生活に問題がある場合に「障害がある」と言われるのですから、学校のような社会を中心に考えれば当然問題を感じてしまいます。
このような問題が生じる原因は明らかにコミュニケーション力不足です。一般的には自閉スペクトラム症のコミュニケーション力不足と考えられがちですが、これは間違いで、本当は自閉スペクトラム症が他の人とコミュニケーションがうまくいかないように、健常者も自閉スペクトラム症とのコミュニケーションがうまくいかないということでもあります。つまり自閉スペクトラム症から見ると、健常者は自閉スペクトラム症に対するコミュニケーション力不足ということです。
私は幸い毎日子どもたちと接しているので、顔が合っただけでお互いが理解し合えているという実感をもつことがあります。仲のいい友人と会った時のあの実感です。多くを語らなくともアイコンタクトとちょっとした身振りで意思を伝えられることが多くなっています。よく分からない時は、単に考え方の違いであって障害によるものとは思えません。このように先生側のコミュニケーション力が向上していくと、自閉スペクトラム症とも目が合う頻度が高くなり、呼びかけに対する反応もよくなります。
最終的にはこれをノウハウとしてまとめ、社会全体が自閉スペクトラム症に対するコミュニケーション力を向上させれば、自閉スペクトラム症が社会参加しやすくなると考えています。
一方自閉スペクトラム症もコミュニケーション力を向上させなければなりません。自閉は直らないといった意見はとりあえずどこかに置いておきましょう。適した教育を継続的に行うことが大切です。コミュニケーション力が向上すれば、確実に健常者とうまくやっていけるようになり、社会の中で働けるようになっていきます。