情報の優先順位は、コミュニケーション力によって判断されると言っても過言ではありません。しかし、感覚自体が過敏になっていることも、優先順位づけがうまくいかず感覚刺激にひんぱんに反応する理由として考慮していかなければなりません。
外界からの情報に対して過敏になるのは誰しもあることです。寝る時に時計のカチカチいう音が気になる、テレビを見ているとそばで話している人の声が邪魔になる、喫茶店でテレビと有線放送が一緒についているとイライラする、人がたくさんいるデパートのざわざわした音に疲れてしまう、テレビアニメの色使いの激しさに耐えられないなど、特別な理由は思い当たらないけれど、強く刺激されてしまうことは誰でも一つはあります。他にも、肌着は綿でないと気になる、2階の足音が気になる、エアコンの音がうるさい、暗闇がこわい、雷の音に怯える、といったこともそうですし、アレルギー性鼻炎なども広い意味では入るでしょう。自閉スペクトラム症の中には、その割合が非常に高いように見える子がいます。強く刺激を受ける理由として、コミュニケーション力が低いためなのか、過敏なのかを明確に区別するのは困難ですが、音を気にする子でもゲームをしている時は極端に高い集中力を示すこともあり、やはり多くの場合はコミュニケーション力不足によるものであって、それが起因して刺激に過敏になっていると思われます。
健常児は外界からの刺激に気をとられても人とのコミュニケーションにできる限り力を注ごうとします。かぜをひいてぼ~っとしている時は人への意識が低下しますが、学校を休むほどでなければ、ある程度は普通の生活が送れます。しかし自閉スペクトラム症は、外界から強い刺激が入ると、人のことよりも刺激の方に気をとられてしまいます。
感覚自体が過敏であることが、生来のものなのか、のちの体験によってなったのかは人によって違いますが、いずれにしても何らかの配慮や対応が必要となります。
では、その対応策を考えてみましょう。
スーパーに買い物に行く時、スーパーのギラギラした光や色が苦手でサングラスをして行く人や、ザワザワした音がいやでヘッドホンをして音楽を聴きながら行く人もいます。一方、自閉スペクトラム症の場合は周りの人が見つけ出してあげなければならないことの方が多いでしょう。何に対して刺激を強く受けるのかはっきりしている場合は、それを取り除けばいいのですが、実際にはそれほど簡単に原因を特定できるとは限りません。複数の原因がある場合もあれば、音全般に気をとられるような場合もあり、特定の原因を取り除くというよりも、生活全体を刺激の少ないおだやかな環境にしてあげる方がよいと思われます。
まず初めに物を少なくすることです。物が多いとそれだけで目がチラチラしたり、いろんなものに気をとられたりして、落ち着きのなさを増長します。最低限の必要な物だけにして、あとは押入れなどの見えないところにしまいます。当塾では必要最小限の物だけにして、生徒が集中できるようにしています。そして必要な物だけに厳選して数を減らしていけばいくほど、生徒の集中力が高まり落ち着きが出てくることを実際に体験することができました。
具体的な例を一つ示します。
子ども用の部屋を1つ作ることができるとします。部屋の広さは狭い方がいいでしょう。1人なら3畳から4畳半もあれば十分です。あまり広すぎると落ち着きません。大人と子どもは体の大きさが違いますから、広さに対する感覚も違います。大人が少し狭いと感じるくらいが、子どもにとっては落ち着きます。広い部屋しか空いていなければ、カーテンで仕切ってもいいかもしれません。
物はとにかく何もないと言えるくらい少なくします。引越しするのかなと勘違いするくらいがいいと思います。カーテン、1つの机、クッションが2~3こ、ゴミ箱が1つ、という家具に、親としてやらせたいと思う教材を5つ以下に厳選して置きます。5つの教材は1つのかごに片付けるようにします。
テレビは置きません。テレビを見たいときはテレビの部屋に行きます。「ながら」を避けるためです。
5つの教材を何にするかはその子によって違うでしょうし、親の教育方針によっても違うでしょう。
完成しているものを動かして遊ぶよりは自分で組み立てて遊ぶものの方がいいでしょう。またキャラクターものは小学校2~3年までは極力避けたいものです。またキャラクターのついている服がかわいいから買ってあげようと思うかもしれませんが、かわいいのは子ども本人です。本人が引き立つような服や家具にしたいものです。
勉強関係のもの(机、下じき、鉛筆など)は、高学年になってもキャラクターは避けるべきです。キャラクターに気をとられて勉強に集中できないような環境を作ってはいけません。集中できないのは本人のせいとは限らないのです。買い与える人も十分な配慮が必要です。
そして絵を描く、折り紙をする、粘土で何かを作る、空き箱で何かを作る、ビーズで遊ぶ、など創造性を高め、心おだやかに集中できる活動をさせてあげましょう。