自閉スペクトラム症はものへのこだわりが強いように見えることがあります。同じパズルを毎日する、ボールペンだけを集める、人形を集めて並べる、電車をずっとながめているなど、人によってこだわることがらは違うものの、人とは関係なくこだわっていることが多いようです。
数年前、自閉傾向を持つ生徒が、社会の白地図を作成するときに東海道線を何も見ずに書き込んでいたことがありました。その他の路線も書き込んで、驚かされたことがあります。この生徒は路線図を見るのが好きで、電車へのこだわりがあります。他にも驚かされたことは何度かありますし、たくさんのすごいマニアックな自閉スペクトラム症がいることも知っています。
しかしこだわりの強さは自閉スペクトラム症の特徴とは言い難く、健常者にもこだわりの強い人はたくさんいます。
ボールペンや電車に興味を持つことにまったく不思議はなく、SLファンや文房具のマニアはどこにでもいます。わざわざ旅行してSLの写真をとったり情報を集めたりする人もいますし、文房具だけで数フロアある銀座の文房具店に毎週通う人や、文房具の一部を見るだけでメーカーと商品名を言える人もいます。この人たちは「ファン」や「マニア」、時には「カルト」という言葉で呼ばれています。
クイズ番組にもカルトと呼ばれる人はよく出てきます。その詳しさは一般の人は知らないようなことばかりで、ある歌手の熱狂的なファンであれば本人よりも詳しく答えられる人もいるくらいです。魚やお菓子の詳しさなど、プロ・アマ問わずものすごい人たちがいます。
ではこのマニアやカルトとこだわりの強い自閉スペクトラム症との違いは何でしょうか。
健常者と自閉スペクトラム症の一番大きな違いは、人とのコミュニケーションを前提にしているかどうかです。「ファン」「マニア」「カルト」と呼ばれる人たちは、1人だけの楽しみよりも同じ好みを持つ人とのコミュニケーションを前提にしているのです。
一方自閉スペクトラム症はコミュニケーション力が低く、人とのコミュニケーションを通して楽しみを共有することが困難です。そのために自分だけで楽しむ傾向が強く、人から見ると「なんであんなことに一所懸命なんだろう」と思われることがあるのです。
健常者の中にも1人だけで楽しんだり、マニアであることを隠している人もいますが、同じ趣味を持った人の前では態度がまったく違います。
子どもたちもカードを何十枚も集めれば、友人と見せたり交換したりする楽しみがあります。集めるだけでも楽しさを感じるでしょうが、やはり友人と遊ぶことを求めています。
自閉スペクトラム症は人とコミュニケーションをとって楽しみを共有することが少なく、もの自体への興味だけに見えるために、奇妙なこだわりに映るのです。